このサイト「航空機がある風景」は、全国の空港で撮影した航空機写真をもとに、撮影場所の選び方、構図の考え方、使用機材や撮影設定などを写真付きで解説する航空写真専門サイトです。
実際の撮影体験をもとに、天候や光の条件、撮影時の工夫や失敗例も交えながら、これから航空機撮影を始めたい方や、表現の幅を広げたい方に向けて実践的な情報を発信しています。
- 静かな進入灯

美保湾の一角から空港へ灯火が並ぶ
海から見ても陸から見てもカッコいい並び
海側で静かに光る進入灯で最終便を迎えた
主役は進入灯であるので、機体が現れる前を選定
Nikon Z6Ⅲ NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
主役は機体ではなく進入灯。美保湾の一角から海に向かって伸びるその光の列は、昼間よりも夜の方が存在感を増す。空港の設備でありながら、どこか舞台装置のような佇まいを見せる瞬間がある。この日はあえて機体を待たず、灯火そのものを作品にする構図を選んだ。
広角20mmを装着して思い切って空を大きく取る。フレームの大半を占めるのは深い群青の夜空。羽田からの最終便が放つランディングライトを受け止めるように、画面右下へ進入灯を配置した。海側で静かに光る進入灯は、これから降りてくる機体のための道標。機体が現れる前の緊張、波音だけが響く時間、最終便を待つ静寂。派手さはないが、空港の夜が持つ本質的な美しさがそこにある。
羽田からの最終便は翌朝までここで過ごして羽田へ戻る運用、それ故に最終感が募るものだ。
- 演出のフィルタ

現像ソフトにあるプリセットフィルタ
禁じ手のようであまり利用してこなかった
しかし、とんでもなく期待の色に近づけてくれたのだ
まあたまにはいいだろう
Nikon Z6Ⅲ NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena
撮影後の現像工程において、これまで意識的に距離を置いてきた表現手法と向き合った結果生まれた一枚である。被写体や構図自体は、これまでと変わらない。雪に覆われた一本道と、その先に広がる冬の空、そして上空を通過する機体。現地では、あくまで静かで淡々とした光景として目に映っていた。
この写真の転機は、現像ソフトを開いたときに訪れた。プリセットとして用意されているフィルタは、どこか「安易な演出」のように感じられ、これまで積極的に使うことはなかった。色を作り過ぎてしまうのではないか、現場で見た印象から離れてしまうのではないか。そんな先入観があったのは正直なところだ。
しかし、このカットに限っては、試しに適用したフィルタが、驚くほど自分の記憶に近い色を引き出してきた。冬の空の澄んだ青、雪面の冷たさ、樹林の乾いた質感。それらが過剰にならず、むしろ整理された形で浮かび上がった。現場で感じた「冬の空気」を、言葉ではなく色で補足してくれたような感覚だった。
構図自体は、道路の直線を強く意識し、視線が奥へと自然に導かれるよう組み立てている。その延長線上に飛び立つ機体を配置することで、「地上から空へ」という物語を静かに成立させた。135mmという画角は、風景を切り取り過ぎず、かといって広がり過ぎることもなく、この距離感にちょうど良く収まっている。
現像は、撮影の延長線上にある作業だと改めて感じた一枚でもある。フィルタは魔法ではないが、使いどころを選べば、撮影者の記憶や意図に寄り添ってくれる道具にもなる。常用するつもりはないが、「たまにはこういう表現も悪くない」。そう素直に思えたこと自体がこの写真を残した理由だ。 - サンセットりんくう

サンセットを望むにはあまりに雲が多かった
キャセイが出発するとので りんくうビーチへ
超望遠一本勝負で離陸シーンは撃沈
進路を西に向けてからが本番だった
Nikon Z6Ⅲ AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR
当初思い描いていた“理想のサンセット”とは少し違う形で辿り着いた一枚。空を見上げた時点で、雲の量は明らかに多く、素直な夕陽を期待できる状況ではなかった。沈みゆく太陽が雲に飲み込まれて終わる可能性も高く、撮影としては判断の難しいコンディションだった。
この日の狙いは明確、超望遠一本勝負。離陸機をシルエットで切り取る、その一瞬にすべてを賭ける構えだ。500mmという画角は、自由度が極端に低い。立ち位置、進路、タイミング、そのどれか一つが狂えば画は成立しない。離陸シーン自体は確かに迫力があるが、真横からの上昇シーンでは空の表情が単調だった。
結果として、雲はむしろ主役になった。分厚い雲の隙間から現れた太陽は、輪郭を失いながらも強烈な存在感を放ち、空全体を橙色に染め上げる。その上を横切るように浮かび上がった機体のシルエットは、意図せず強い対比を生んだ。ここでは、機体のディテールは一切不要で、形が分かれば十分。むしろ黒く沈んでくれたことで、空の劇的な表情が際立った。
振り返れば、これは計算通りに撮れた一枚ではない。むしろ、条件に翻弄されながらも、最後に空が用意してくれた答えを、そのまま受け取った写真だ。
- 悶絶のファイナルアプローチ

久しぶりに山を下りて丘をロケハン
冬といえども揺らいでいる空気の影響を回避するためだ
「おっ」と思った場所も過去にしくじった場所
まだ見ぬ場所を探し当てたい
Nikon Z8 NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S 親子の木から
超望遠で遠景を撮るとわずかな揺らぎが像を甘くする。その影響を少しでも避けるため、今回はいつもの山を下り、空気層を短く切る位置を選んだ。撮影地としてはロケハンを重ねてきた場所だが、「おっ」と感じるポイントほど、過去に痛い思いをしてきた場所でもある。
雲が割れたとき、まず目に飛び込んできたのは、雪に刻まれた深い谷のラインだった。風が作り出した雪面の起伏は、人工物では決して再現できない複雑な造形を見せる。
ファイナルアプローチという時間帯は、撮影者にとっても精神的に追い込まれる瞬間だ。高度、バンク、速度、すべてが刻一刻と変化し、迷いはそのまま失敗につながる。構図を詰めすぎれば機体を逃し、引きすぎれば山の迫力が薄れる。結果として派手さはないが、息を止めて見てしまうような緊張感が残った一枚になったと思う。
- 目覚めるHND

漆黒の空の夜明け前、国際線が次々と降りてきていた
京浜島の前からはトーイングされた機が次々とターミナルへ
空はあっという間に蒼から赤へ
日の出と共に北へ南へと出発機が続いた
Nikon Z6Ⅲ NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
夜と朝がせめぎ合うわずかな時間帯に、羽田空港が持つリズムそのものを写した一枚だ。漆黒だった空は、夜明け前になると一気に表情を変え、濃い藍から深い橙へと移ろっていく。その短い時間に、国際線は次々と到着し、空港は眠りから覚める準備を始めていた。
京浜島の前に立つと、その変化はより立体的に感じられる。トーイングされた機体が静かにターミナルへと引き込まれ、滑走路の向こうでは次の出発を待つ機体が息を潜めている。動きは多いが、どこか抑制され、夜明け前特有の緊張感が漂っていた。
構図の中で意識したのは、「時間の流れ」を一枚の中に同居させることだ。手前には駐機中の機体と顔を出した太陽、上空には上昇を始めた出発機。それらを同時に収めることで羽田の朝を象徴的に表現した。空の色が急速に赤へと傾いていく中で、シルエットとして浮かび上がる機体は、細部を語らない代わりに、目覚め前を雄弁に物語っている。
70–200mmという中望遠域は、この距離感にちょうど良かった。空を大きく取りつつ、地上の機体をしっかりとフレームに残せる。広角では散漫になり、望遠では時間の広がりが削がれてしまう。その中間の選択が、この写真の静けさと密度を支えている。
夜明けとともに、北へ、南へと出発機が続き、空港は完全に目を覚まし、昼の顔へと切り替わっていくが、この色、この空気はほんの一瞬で消えてしまう。「目覚めるHND」と名付けたのは、羽田が動き出す前の、このわずかな隙間の時間を表現できたからだ。この一枚は、派手な瞬間ではない。しかし、空港という場所が持つ鼓動を、最も素直に感じられた時間を写せたと思っている。夜明け前、羽田の鼓動が徐々に大きくなっていた。


